近年,燃料の枯渇問題や環境問題等の観点から「再生可能エネルギー」の重要性が高まっている。本研究室では「海洋再生可能エネルギー」を中心に自然エネルギーを利用した発電方法について日夜研究を行っている。


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(A>B)

A:B

 本装置における出力向上の方法について種々な検討を行ってきたが,出力を大幅に改善するためにはやはり流速を向上する必要がある。そこで,流速を大幅に向上することのできる巻き上げ機を有するマグナス波力発電装置を提案する。図10はその構成である。同図に示すように本システムは海底で固定されたアンカーから伸びたワイヤーがフロート上部に設置してあるギアボックスを介してマグナス波力発電装置本体に接続される構造となっている。動作原理は以下の通りである。先ず,波の上昇によりアンカー側のワイヤーが引っ張られる。この張力はギアを介してマグナス波力発電装置本体を引き上げる力となる。ギア比を増速に調整すれば一回の上昇で得られる流速も速くすることができる(A:BならばA/B倍)。なお,ギアにより本体を引き上げる力は低減されてしまうが,波のエネルギーはとても大きいため,ギアにより引き上げる力が多少損なわれた場合においても大きな問題は無いものと考えられる。

図6 通常ブレードのピッチ角

図8 風洞におけるガイドベーンの効果

図5 レデューサ,ディフューザ

 図2に本装置の概観を示す。本装置の動作原理は以下の通りである。先ず,ブレード駆動用モータによりブレードを回転させる。波により発生する相対的な流体の流れによりブレードに「マグナス効果」による揚力が生ずる。発生した揚力によりメインシャフトおよび発電機が回転し,発電を行う。本システムの使用方法例としては沖合いでの利用を考えた「浮体式波力発電装置」(図3)や海岸沿いで用いる「固定式波力発電装置」(図4)などがあげられる。なお,ブレードの周りには図示のように流速を速めるためレデューサ・ディフューザが設けられている。

図1 マグナス効果の原理図

 図7は提案するガイドベーンの概念図であり,同図はブレード先端から見たものである。ガイドベーンの無い従来の方式では上方から流入する流体Vwによって,ローターが回転すると,ロータの回転速度と流体速度のベクトル和である流体の相対速度(図7参照)がブレードに作用するため,ロータが回転している場合にはブレードの揚力は右下へ修正され,抗力もロータの回転速度を妨げる向きに発生することとなる。これに対し,図中右のガイドベーンを設置した場合には,流入する流体は左上方からとなり,これとロータ回転速度による相対速度はブレード上方から作用することとなる。この場合,流体の相対速度による抗力はロータの回転方向と垂直に作用するため抗力は大幅に低減され,発生する揚力は図示のようにロータ回転方向へ作用することとなる。以上より,マグナスブレードにガイドベーンを設けた場合には揚力の低減なしに抗力を減少できると考えられる。

図7 ガイドベーン

 図6に示すような一般的なブレードに流体を作用させた場合,ブレードの回転に必要な揚力だけでなく,回転を妨げる抗力も発生する。この抗力を低減するためには作用する流体の方向を,ブレードを押す方向へシフトすれば良いが,その場合,揚力まで減少してしまう(流体に対する最適なブレードの角度が存在する)。これに対し,本システムで採用しているマグナスブレードはブレード形状によって揚力を得るものではないため,ガイドベーンによる抗力の低減が可能であると考える。

 レデューサ並びにディフューザとは入口と出口の面積が異なる筒状のものを組み合わせたものであり(図5参照),ここを通過する流体の速さは入口と出口の面積比によって変化する。なお,流速向上におけるレデューサ(ディフューザ)の最適角度を検討した結果,60度程度が適切である事がわかった。

 本研究では新しいタイプの波力発電装置として,流体中に置かれた回転体が揚力を得るという「マグナス効果」を利用した波力発電装置を提案し,種々な検討を行っている。

 同様な効果が水中でも得られるかどうかを検討するため,本装置を水中で上昇させブレードに相対的な流速Vwater=0.375[m/s]を与えた場合のメインシャフトの回転数を測定した。図9はその結果である。図示のようにガイドベーンのある場合には無い場合と比べメインシャフトの回転数は2倍近く上昇することがわかった。また,一回の上昇による動作時間もガイドベーンありの方が長くなることが判明した。

・水中におけるガイドベーンの効果の検証

 供試装置が受ける波の上下運動に基因するVwaterを算出すると0.375[m/s]と非常に低い値となるため,半径0.37[m]のブレードで得られるタービン出力は4.5[W]と非常に小さい。そこで,出力向上のため本装置に作用する流速を増加させる工夫が必要であると判明した。

図2 供試マグナス波力発電装置

 日本近海において発電に利用可能な波は,波高値0.53[m],周期510[s]程度であるといわれており,一般的な波の有義波高値H1.5[m],有義周波数T8[s]とされている。これら一般的な波の値を用いて供試マグナス波力発電装置のタービン出力を概算すると次のようになる。

図3 浮体式波力発電装置

図4 固定式波力発電装置

・風洞におけるガイドベーンの効果の検証

 ガイドベーンの効果について検証するため,風洞を用いた簡易実験を行った。図8はその結果で,風速Vwind=6.5[m/s]において装置を無負荷運転した場合のブレード回転速度に対するメインシャフト回転速度の特性を示したものである。図より,ブレード回転速度の大きいほどメインシャフトの回転速度も上昇することがわかる。また,ガイドベーンの効果により,メインシャフトの回転速度は2倍近く上昇することが判明した。

但し,Cp:出力係数,Rb:ブレード半径,ρ:水の密度

 今後の課題として,マグナス波力発電装置のタービンの出力係数の導出やブレード形状がシステムに及ぼす影響についての検討や巻き上げ機を有するマグナス波力発電装置の製作及び同システムの出力特性の解析などがあげられる。

 本供試装置のタービン出力Ptは風車と同様に,平均流速Vwaterの3乗に比例する次式を用いることとする。

 マグナス効果とは,流体中に置かれた回転体に揚力が生ずる現象である。図1にマグナス効果の例を示す。図示のように流体中でボールを回転させるとボールの上方と下方の流速には回転方向に基因する差が生ずる。この流速差は圧力差を引き起こすため(ベルヌーイの定理)ボールには図示の方向に揚力が生ずることとなる。




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図10 巻き上げ機を有するマグナス波力発電装置

図9 水中におけるガイドベーンの効果

実験結果を踏まえて試作一号機を製作した。
供試装置からの改善点として
・マグナス効果を増大させるために
 ブレードを三本に増やし,
 ブレードの径を大きくした。(図5)
・内部シャフトの損失をなくすために,
 ブレード駆動用モータを防水加工し下部に配置した。