ピッチ角とはブレード回転軸に対するブレードの角度のことであり,風車において最も重要な要素の一つである。図1にブレードのピッチ角を示す。図1に示すように,ブレードに生ずる揚力は風速とブレード回転速度によって決まる相対的な風向によって生ずることとなる。その大きさは相対的な風向に対するブレードの角度(仰角)によって変化するためピッチ角には風況に応じて最適な値が存在する。
表1に示すように後翼のピッチ角を大きくすることにより始動特性が良好となることがわかった。
以上の結果を基に供試装置における最適なピッチ角を前翼4[deg.],後翼8[deg.]と仮定し,三枚翼駆動時での出力特性を測定すると図5に示す結果となった。図より後翼のピッチ角θrを大きくすると始動特性が良好となるかわりに出力が低下することから,ピッチ角による始動特性の向上と出力特性の向上はトレードオフの関係にあることが判明した。
図2 ブレードのピッチ角(高回転時)
図4 ブレードのピッチ角(低回転時)
図6は前後とも同じピッチ角である従来の風車(θf=5[deg.],θr=5[deg.]),図7は前後翼に異なるピッチ角を設けた新型風車(θf=4[deg.],θr=6[deg.])の出力特性である。図6,7を比較した結果,始動特性,出力特性ともに改善されていることがわかった。本検討から前後翼に異なるピッチ角を設けることにより可変翼枚数風力発電装置の特性を改善できることが明らかとなった。
図6 従来の風車の出力特性
(θf=5[deg.],θr=5[deg.])
図7 新型風車の出力特性
(θf=4[deg.],θr=6[deg.])
図5 後翼ピッチ角θr=6,8[deg.]の場合での
三枚翼駆動時出力係数比較グラフ
本研究室では始動性や効率の面で優れた特徴を有するマイクロ風車として可変翼枚数風力発電装置を提案し,種々な検討を行っている。同装置は2つの三枚翼ロータを持ち,一方は回転軸に固定され,もう一方は軸に対して60[deg.]の可動域を持たせて回転軸に接続される構造となっている。これにより前面から見た翼枚数を六枚から三枚に変形させることができる。
今年度の研究では風車において最も重要な要素の一つであるブレードのピッチ角が同風車の出力特性に及ぼす影響について検討し,最適なピッチ角を有する可変翼枚数風力発電装置を提案する。
図1 ブレードのピッチ角
一般的に大型の風車には風況に応じてピッチ角を可変する可変ピッチ機構が組み込まれている。小規模風車に可変ピッチ機構を組み込んだ場合,機構が複雑となり風車が大型化するため小型風車やマイクロ風車に取り付けられている例は少ない。我々の提案する可変翼枚数風力発電装置も固定ピッチタイプのマイクロ風車である。
そこで本研究室では可変翼枚数風力発電装置の特徴である「翼の可変動作」を利用した簡易可変ピッチ角装置を提案する。本方法は三枚翼動作時に高い効率の得られる高回転用のピッチ角を前翼に設け,六枚翼動作時に始動性を向上するための低回転用のピッチ角を後翼に設ける。これにより可変翼枚数動作とピッチ角の変更を同時に行うことができる。
図3 三枚翼駆動時出力特性比較グラフ
表1:ピッチ角による始動風速の変化
風車が高速で動作すると図2に示すようにブレード回転速度が点線分だけ上昇し,相対的な風向は図1の時よりもブレード回転軸に近づくことになる。以上より風車が高回転で動作する場合には,変化する「相対的な風向」とともにピッチ角も小さくする必要がある。
本装置は高回転時には三枚翼で動作する。そこで三枚翼動作時に風を直接受けることとなる前翼のピッチ角を高回転用のピッチ角とすることにより風車の出力特性を向上できると考え,本方法の有用性を確認するため供試装置を用いた実験を行った。供試装置は前翼,後翼ともに5[deg.]のピッチ角が設けられているため前翼のピッチ角θf を4[deg.]にして実験をおこなった。
図3は前翼ピッチ角θf=4[deg.],後翼ピッチ角θr=5[deg.]の場合の三枚翼駆動時のグラフである。変更前と比較して前翼ピッチ角θfを小さくすることにより出力係数Cpが0.3以上という高い結果が得られた。
実験結果を踏まえて試作一号機を製作した。
供試装置からの改善点として
・マグナス効果を増大させるために
ブレードを三本に増やし,
ブレードの径を大きくした。(図5)
・内部シャフトの損失をなくすために,
ブレード駆動用モータを防水加工し下部に配置した。