本研究室では新しいタイプの波力発電装置として、流体中に置かれた回転体が揚力を得るという「マグナス効果」を利用した浮体式の波力発電装置を提案し、同システムの基本的な動作確認を行ってきた。本研究では同提案装置の発電性能を評価するとともに、システムの改良を行う。

 図1にマグナス効果の説明図を示す。マグナス効果とは一様な流体中に図示のように回転する円柱または球体などの物体を置くと,物体に流体に対して垂直方向の揚力が生ずる現象を言う。
 マグナス効果の一例としては野球の変化球などが挙げられる。

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 本装置は海上に浮かぶ浮体とこれと連結された海中のタービンとで構成されている。図2に本装置の構成を示す。本装置のブレードはマグナス効果による揚力を得られるように円筒型となっており、これ自体が回転する仕組みとなっている。例えば、浮体が波のエネルギーを受けて上方へ移動するとこれによる相対的な水流が海中のブレードに作用し、図示の方向に発生する揚力によりメインシャフトが回転する。本装置はブレード自体の回転速度や方向を変えることにより、波のような複雑な反復運動を滑らかな回転運動に変換することができる。

図1 マグナス効果の説明図

図2 マグナス波力発電装置の構成

実験結果を踏まえて試作一号機を製作した。
供試装置からの改善点として
・マグナス効果を増大させるために
 ブレードを三本に増やし,
 ブレードの径を大きくした。(図5)
・内部シャフトの損失をなくすために,
 ブレード駆動用モータを防水加工し下部に配置した。

但し、ρ:流体の密度、g:重力加速度。
また、タービン出力Ptは風車と同様に考えて、流速の3乗に比例する次式を用いて表すこととする。

但し、Cp:出力係数、Rb:ブレード半径、Vw:流速。
 以上の方程式より、一般的な波の持つ1[m^2]あたりのエネルギーは約8.6[kW]となる。また、供試装置が受ける波の上下運動に基因する流速は0.375[m/s]となり、供試装置のタービン出力は何も工夫をしない状態(Rb=0.43[m]、Cp=0.4として計算した)では6.1[W]となる。これは波の持つエネルギーの0.07%であり。このままでは発電装置として十分な出力を得ることができないことが判明した。これを改善するためにはブレード半径を大きくすれば良いが、ブレード自体を回転させるエネルギーが増加することや、装置自体が大型化してしまう問題が生ずることとなる。

 日本近海において発電に適している波は、波高値0.53[m]、周期510[s]と言われており一般的な波の有義波高値H1.5[m]、有義波周期T8[s]とされている。この一般的な波の値を用いて供試マグナス波力発電装置のタービン出力の概算を行うこととする。
 先ず、波のエネルギーPwは次式で表される。

図3 レデューサー(ディフューザー)の形状

・・・・・・(1)

・・・・・・(2)



 近年,燃料の枯渇問題や環境問題等の観点から「再生可能エネルギー」の重要性が高まっている。本研究室では「海洋再生可能エネルギー」を中心に自然エネルギーを利用した発電方法について日夜研究を行っている。


 タービン出力の低い原因がブレードの受ける流速の遅さであることから、これを改善することのできるレデューサー(片落ち管)を提案する。図3にレデューサーの形状を示す(ブレード上下に設置することにより上下いずれの運動においても効果を発揮する。また一方はディフューザーとしても働く)。
 これを供試装置へ取り付けた場合もシステムは大型化することとなるが、レデューサーにより流速を上げることができ、マグナス効果を利用したブレードが高い流速においても十分な揚力を得ることができれば、ブレード半径を大きくするよりも装置の大型化を避けることができる(タービン出力はブレード半径の2乗、流速の3乗に比例する)。実際にレデューサーを取り付けた供試装置を製作し、プールにおいて実験を行ったところ、レデューサーの効果によりタービン回転速度は取り付けないものと比べて高速で回転することが明らかとなった。




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 今後の課題として、供試マグナス波力発電装置に適したガイドベーンの設計、本装置を効率的に動作させるための制御方法についての検討などが挙げられる。