近年,燃料の枯渇問題や環境問題等の観点から「再生可能エネルギー」の重要性が高まっている。本研究室では「海洋再生可能エネルギー」を中心に自然エネルギーを利用した発電方法について日夜研究を行っている。


マグナス波力発電装置のブレード制御の改善
Improvement of Blade Control for a Wave Power Generating System with Magnus Effect
 

はじめに

 近年、エネルギーの大量消費による化石燃料の枯渇や、地球温暖化をはじめとした環境問題が深刻化している。そのため、世界レベルでのエネルギー転換が求めらており、環境への負担が少ないとされる風力、波力、太陽光などの再生可能エネルギーに注目が集まっている。なかでも、筆者は波力エネルギーに着目し、波の上下運動により生じる水流とマグナス効果を利用して発電するマグナス波力発電装置について研究を行っている。本研究では同装置が有するマグナスブレード(モーターで駆動する円柱)の最適な回転速度について検討する。
 
マグナス効果 
 図1にマグナス効果の概念図を示す。同図より、回転体の上部では流速が速くなり、下部では流速が遅くなる。圧力は流速が速いほど低く、流速が遅いほど高くなる。したがって、回転体にベルヌーイの定理に基づく圧力差が生じ、回転体を押し上げる方向へ揚力が生じる。  
図1. マグナス効果の概念図
  
マグナス波力発電装置の構成と動作
 図2にマグナス波力発電装置の構成を示す。本装置はモータにより駆動する円柱状のマグナスブレードを有する発電装置である。図示のようにマグナスブレードが回転している時、ブレードに波の上下運度により生じる水流が作用すると、マグナスブレードにはマグナス効果による揚力が発生する。その結果タービンは図示の方向へと回転する。また、マグナスブレードに作用する水流が逆方向となる場合には、ブレードを逆回転させることによってタービンを一定方向に回転させることが可能である。  
図2. マグナス波力発電装置の構成
 
マグナスブレード用ガイドベーンについて
 図3は既に提案されているマグナスブレード用ガイドベーンの概念図である。同図には装置に流入する水流や、マグナスブレードに作用する相対的な水流、タービンの回転方向などが図示されている。同図(a)はガイドベーンがない場合、同図(b)はガイドベーンがある場合である。同図(a)より、ガイドベーンがある場合には相対流速が斜めから流入するため、タービンの回転を妨げる方向に抗力が発生する。これに対し、同図(b)のようなガイドベーンを設けた場合、相対流速はブレード上部から流入することとなり、回転を妨げる抗力を除去することが可能となる。同ガイドベーンの有用性は実験的検討においても確認されている。
 
図3.マグナスブレード用ガイドベーン
 
マグナスブレードの適切な回転速度に関する検討
 タービンを効率よく回転させるためにはマグナスブレード自体の回転速度を適切な値に制御する必要があると考えられる。そこで、相対流速がマグナスブレードの真上から流入した時のブレード表面の流速について検討を行った。
 理想流体中のマグナスブレード表面の流速qθは次式で表すことができる。
・・・(1)
但し、U:流体の流速[m/s]θ:マグナスブレードの中心軸周りの角度[°]qs:マグナスブレードの周速度[m/s]である(周速度とは、円周上の任意の点を始点とした時、その点が円周上を単位時間あたりに進んだ距離で表される)。
 図4に流体中のマグナスブレードの様子を示す。同図(a)は理想流体中にマグナスブレードをおいた時を表しており、同図(b)は実際流体中にマグナスブレードを置いた時の一例を表している。両図にて、よどみ点(流速が0となる点)は赤い丸で表される。実際の流体ではブレード後方に図示のような渦が発生するためブレード後方のよどみ点の影響は弱くなるものと考える。
 図5には、図4(a)のような理想流体中におけるマグナスブレード表面の流速の変化の様子を示している。同図にてΔqθ_1Δqθ_2はよどみ点と反対側のブレード面における流速差を表している。マグナスブレードに発生する揚力の大きさは流速差が大きいほど大きくなるため、よどみ点の反対方向へと生じることとなる。図5より、マグナスブレードが流速の2倍の周速度で回転する場合、よどみ点はブレード直下となる270[°]の位置に生じることがわかる。これは流体の流入する方向に対し90[°]進んだ方向となるため、本装置における揚力の発生方向として最適な位置であると言える。
 以上より、マグナスブレードに働く揚力を常にタービンの回転方向へと向けるためには、よどみ点をタービンの回転面上に置く必要があり、その際マグナスブレードの周速度が次式となるように回転速度を制御すれば良いことが判明した。
・・・(2)
 
       図4. マグナスブレード周りの流体の流れ        図5. マグナスブレード表面の流速の変化
 
おわりに
 本研究ではマグナス波力発電装置の適切な回転速度について検討を行った。その結果、マグナスブレードに生じる揚力を常にタービンの回転方向へと向けるためには、ブレードの周速度をブレードに流入する相対流速の2倍の値となるように制御すれば良いことが判明した。



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