近年,燃料の枯渇問題や環境問題等の観点から「再生可能エネルギー」の重要性が高まっている。本研究室では「海洋再生可能エネルギー」を中心に自然エネルギーを利用した発電方法について日夜研究を行っている。


  近年、化石燃料の枯渇問題や環境問題等を背景に様々な再生可能エネルギーに注目が集まっている。しかしながら、これら新エネルギーの大量導入は、電力系統の周波数や電圧変動などの問題を引き起こす可能性がある。風力発電においても、風力タービンの出力変動が重要な問題となっている。本研究では、この問題を解決する方法の一つとして電力補償装置を有する風力・太陽光ハイブリッド発電システムを提案し、本提案システムの理論解析の結果を検証するために必要となる供試風力・太陽光ハイブリッド発電システムの開発を行った。


 
・風力・太陽光ハイブリッド発電システムの構成
 図1に風力・太陽光ハイブリッド発電システムの構成を示す。同システムは図示のように、サイリスタコンバータにより直流に変換された送電端側系統並びに風力発電装置の出力をサイリスタインバータにより交流に再度変換し、受電端側系統に供給する。送受両端には電力補償装置が接続され、風速の低下に伴い風力発電装置の出力が低下する場合には、電力補償装置により不足分の電力を供給する。逆に、風力発電装置から余剰電力が発生する場合には電力補償装置により余剰電力を回生する。また、受電端側系統に接続される電力補償装置は、風車出力の変動を補償するだけでなくサイリスタインバータや受電端側系統に必要となる無効電力の供給も行うことができる。  
図1.風力・太陽光ハイブリッド発電システム 


・太陽光発電を用いた電力補償装置
 図2に、本提案システムに接続される電力補償装置の構成を示す。同装置はソーラーパネルによりバッテリーを充電し、その電力を用いて直流電動機、同期発電機を駆動させることにより、風速変化に伴う送電電力の変動を補償する。また、風力発電装置から余剰電力が発生する場合には、同期発電機を同期電動機、直流電動機を直流発電機として駆動させることにより、これをバッテリーに回生する。本装置によって、風車出力を無駄にすることなく送電電力の変動を補償することが可能となる。  
 図2.太陽光発電を用いた電力補償装置



 提案する風力・太陽光ハイブリッド発電システムの有用性を確認するためには理論解析に加えて、それらの結果が妥当であることを証明するための実験を行う必要がある。そこで、本提案システムにおける種々な実験を行うために供試風力・太陽光ハイブリッド発電システムの開発を行った。ここでは、供試発電システムの一部である電力補償装置とヨー制御装置について説明する。

・電力補償装置
 図3に製作した電力補償装置の構成を示す。同装置は図示のようにソーラーパネル、太陽光発電用MPPT回路、バッテリー、双方向チョッパ回路、直流電動機、同期発電機により構成される。ソーラーパネルの出力が太陽光発電用MPPT回路を介してバッテリーに充電される。MPPT回路を用いることにより、様々な気象条件下においても最大電力点での発電を可能とする。同回路は昇圧回路となっており、ソーラーパネルの出力を昇圧してバッテリーを充電している。また、本装置の発電機出力を50[Hz]とするため、発電機の回転速度を1500[rpm]一定で駆動する必要がある。そこで双方向チョッパ回路を用いて直流電動機を駆動し1500[rpm]の定速度制御を行っている。  
 図3.製作した電力補償装置

・ヨー制御装置
 風から十分なエネルギーを得るためには風向に風車の向きを追従させるヨー制御を行う必要がある。一般にこうしたヨー制御はマイクロ風車を除き、電動機を用いて風車の向きを変える方法が取られているため、ヨー制御自体にもエネルギーが必要となる。そこで、供試発電システムの一部として風向追従に必要となるエネルギーを考慮したヨー制御装置を製作した。
 同装置では、常に風向を追従することはせずに一定間隔でヨー制御を行うため、最もエネルギーの得られる適切な風向の推定を行う必要がある。適切な風向の推定には、風向だけでなく風速、計測された時間が重要となる。また、タービン出力は一般に次式で表され、風速の3乗に比例していることがわかる。

                      
但し、Pt:タービン出力、Vwind:風速、ρ:空気密度、Rb:ブレード半径、Cp:出力係数である。これらを考慮した変数を重みWdと呼ぶこととし、次式で表すこととする。

                      
但し、Td:計測経過時間、D:マイコン処理に必要な定数である。この重みWdは風速が速いほど、また計測経過時間の大きいほど(大きいほど最新のデータ)大きくなるように設定した。これを風向毎に積算することにより、重みの最も大きい風向を知ることができ、この風向が推定した適切な風向となる。供試装置を用いて適切な風向の推定を行った結果の一例を図4に示す。


 
 (a)推定に用いた重みの計測値 (b)推定した風向と次の推定に必要な重み 
図4.風向の推定

図4(a)は計測開始から10分後の風速を推定するために用いた重みの測定値である。同図(b)には(a)より推定した風向と、その後10分間に計測した重みの値を示してある。同図より、推定した風向と最もエネルギーの得られる風向がほぼ一致していることがわかる。また、この時の風速と風向の過渡応答を計測した。図5に風速、図6に風向の過渡応答を示す。両図より風速が速い時の風向を追従できていることが確認できた。


 
 図5.風速の過渡応答 図6.風向の過渡応答


 本研究では風力発電装置を有する直流送電系統の電力補償装置として太陽光発電を用いたシステムを提案し、同システムの理論解析の結果を検証するために必要となる供試風力・太陽光ハイブリッド発電システムの開発を行った。既に、ヨー制御装置、サイリスタコンバータ、太陽光発電用MPPT回路、双方向チョッパ回路等の製作が完了している。今後は、供試発電システムを用いた種々な実験を行う予定である。



Copyright 2007 Salesian Polytechnic, All Rights Reserved..