近年,燃料の枯渇問題や環境問題等の観点から「再生可能エネルギー」の重要性が高まっている。本研究室では「海洋再生可能エネルギー」を中心に自然エネルギーを利用した発電方法について日夜研究を行っている。


提案する波力発電装置とその原理
 図に提案する波力発電装置の構成を示す。本装置は図示のように偏心した回転体とこれに接続された発電機とで構成され,複雑な機構を用いない簡易な構造となっている。
 次いで原理について説明する。図は波の円運動に対するシステム本体及び偏心分銅の位置を表した本システムの動作原理図である。これを用いて本システムの動作原理について説明する。図中の左側には波の模式図(hHはそれぞれ波の振幅および波高)を,右側には波の最高点及び最下点に発電装置本体が位置する場合の偏心分銅位置を示す。海面において波が物体に与える運動は円運動となるため,システム本体は図中の円軌跡に沿って移動することとなる。例えば,システム本体が波の最高点に位置し,本体と偏心分銅が図示したような位置関係となる時に波の円運動を受けると,波の円運動により偏心分銅に図示したような左向きの向心力が働き,回転体が回転するのである。
 提案する波力発電システム
 本システムの動作が確認できたので,同システムが発電システムとして動作可能であるかを検討する。本システムが偏心分銅の運動によって波のエネルギーを回収できるならば,システム停止時(回転体停止時)及びシステム動作時(回転体回転時)のそれぞれについて本体を円運動させるために必要なエネルギーに差が生じるはずである。図4に実験により得られたモータの回転数Nに対するモータの入力Pinを示す。同図より,システム動作時のほうが円運動を与えるのに大きなエネルギーが必要となることがわかる。これは,波のエネルギー(円運動)が偏心分銅の回転エネルギーに変換されたためである。また,上述した動作実験に用いた偏心分銅の質量を1倍として,偏心分銅の重さを2.7倍,3.9倍と変えて同様な実験を行った。この結果,偏心分銅の質量を増加させると,偏心分銅の回転エネルギーが大きくなることがわかった。 
提案システムの動作に関する実験的検討

 本提案システムが円運動により動作可能であることは明らかとなったが,条件によっては本システムの動作が不安定となる事が判明した。このことから,安定した運用を行うためには本システムの理論的な解析が必要であると考える。そこで,本提案システムの諸方程式を導出した。導出したシステム本体の重心回りの力のモーメントmGは次式で表される。

 ・・・・・・(1)  

ここで,rGは回転体の中心から重心までの位置ベクトルの大きさ,fwuは回転体の中心に働く向心力,θuは波の円運動の中心からみた本システムの進み角,θeが回転体の中心から見た偏心分銅の進み角,τgが発電機に生じるトルク,kがモーメントの向きを表す単位ベクトル,Mが偏心した回転体の全質量を表す。偏心分銅が重心周りに反時計回りに回転するためには,(1)式の平均値が正となる必要がある。同式から,どのような条件においてmGの平均値が正となるかを検討すると,右辺第一項のθuθeの位相差を以下の値にすることにより最も大きな値になると考えられる。

  (θu-θe)=90°・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

(2)式の条件を保つことができれば,上述したように重心周りのモーメントを最も大きな値に保つことが出来る。以上より,波の円運動による本体位置と偏心分銅の位置の関係が判明した。
 本提案装置が最適な動作条件を得られるように,双方向昇降圧チョッパ回路を用いて偏心分銅の位置制御を行い,波の円運動と偏心分銅の回転を同期させる。制御に必要となるデータの検出方法は以下のとおりである。偏心分銅の位置はロータリーエンコーダを用いて検出を行う。波に対する装置の位置は重力センサを用いて1周期前の波から次の波を推定することとした。製作した制御回路を図に示す。θuθeの位相差をマイコンにより計算し,位相差が90°より大きい場合はマイコンによりFET2OFFとし降圧チョッパ回路に切り替えモータリングを行い,逆に位相差が90°以下のときはFET1OFFとし昇圧チョッパ回路に切り替え発電を行う同装置により,θuθeの位相差を90°に保つことが可能であると考える

 実際に海上で試験を行うための試作機を製作した。同装置は最適な動作条件を得られるように,双方向昇降圧チョッパ回路を用いて1台の発電機を電動機としても使用する方式とした。製作した装置を図6に示す。

 実際に海上で実験を行った結果,海岸沿いで本提案装置を運用する場合,2つの大きな問題点のあることが明らかとなった。1つ目の問題は海岸沿いでは1サンプル前の波と次の波が大きく異なるため,上述した『波を推定する方法』では偏心分銅が波と同期しにくいということ。もう1つは波が連続して発生しないため,連続動作が困難であるという問題である。図7に実験中の風景を示す。

実験結果
 製作した試作機1号機
Studies on Floating Wave Power Generating System with Eccentric Weight



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提案する波力発電装置
 本研究では構造が簡単でありメンテナンスが容易で,かつ堅牢な新しいタイプの波力発電装置を提案する。先ず,製作した供試装置を用いた実験について検討を行う。また,同システムの基本的な動作特性を解析するために必要となる方程式を導出し,特に動作範囲について明らかにする。さらに,同システムの解析により明らかとなった動作範囲を維持するための制御法について検討を行う。また,以上の検討結果を基に製作した試作機について説明し,同装置を用いた海上実験により得られた結果について考察する。

(a)上図

(b)正面図

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 これらの問題を解決する方法としては比較的大きな波が連続で発生する場所に本装置を設置する方法が考えられるが,運用上,このようなユビキタス発電装置は種々な場所で使用できるほうが好ましく今後の改良が必要であると考える。

 実験風景
今後の予定
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 供試装置を用いて動作実験を行った結果,システム本体にある一定速度以上の円運動を与えることにより,システム本体内部の回転体は与えられた円運動と同期して回転し続けることがわかった。また,波の円運動と偏心分銅が同期する位置関係は図2とほぼ同程度となることが明らかとなった。以上より,考察した動作原理が妥当であることなどが判明した。
提案システムの動作に関する実験的検討
 製作した供試装置
図5 昇降圧チョッパ回路
 本提案装置の動作原理を確認するため,製作した供試装置による実験的検討を行う。図に製作した供試装置を示す。同供試装置は提案システムと同様な偏心分銅を有する回転体を持つシステム本体と,これに波を模擬した円運動を与える装置とで構成されている。円運動を与える装置はモータにより駆動されているため,システム本体を所望の速度で円運動させることができる。
 動作原理説明図
 分銅の回転がモータ入
   力電力に及ぼす影響
偏心分銅を用いた浮体式波力発電装置の研究